強い腕

2000年9月28日
本のページを閉じることが出来ない。まわりの音がすーっと遠ざかっていくほど、引き込まれる。
読んでいるのはランス・アームストロング著『ただマイヨジョーヌのためでなく』である。

日本では、アメリカでメジャーなスポーツでないとあまり世間の関心を集めない傾向があるように思うが(サッカーでさえ、盛り上がってきたのはここ数年だ)、自転車のロードレースもそのひとつだ。
世界最大の自転車ロードレース、ツール・ド・フランスの昨年と今年の覇者が、ランス・アームストロング、その人だ。

知っている人には今更のことだが、ツール・ド・フランスは約2週間の間、ピレネーの山々を縫って200人近い数のロードレーサー達がただひたすら自転車で走り続ける、世界で最も過酷なレースだ。日によっては10時間近く自転車上で過ごす。ヨーロッパではメジャーなスポーツであり、そのアスリート達は尊敬の的だ。

アメリカ人であるアームストロングは、(アメリカではメジャーではないために)国内では行われない“本物のレース”に参加する為に、十代の時からヨーロッパを目指して自転車を走らせていた。はじめはトライアスロン選手として。そしてやがてプロのロードレーサーとして。輝かしい彼の前途。
その彼が癌に冒される。絶望、葛藤、そのすべてが本の中に描かれる。
しかし、数年後のツール・ド・フランスで、彼は2年連続のチャンピオンに輝く。

多くのことは、恐らく本を実際に読んだほうがはるかに面白いので語らないが、これは奇跡ではなく、一人の男のただ努力と生きる力とが起こした“事実”なのだ。

著書の中で、アームストロングは
「断言していい。癌は僕の人生に起こった最良のことだ」
という。

単なるポジティブ・シンキングではない。さまざまな葛藤が、経験が、彼を変えていき、その変化こそが彼のこれからの人生のためになによりの宝物であったからこその、心からの言葉だ。
アームストロングという名前は――その名前がどんな不本意な事情で彼に与えられたものだとしても――彼にとって一番ふさわしい名前だと、思った。

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