私の住む阿佐ヶ谷という町には、日本が世界に誇っていい店がある。
吉澤のおっちゃんが、そのお母さんと二人できりもりする小さな肉屋、吉澤肉店である。

商店街の中にある、ともすれば見落としてしまいそーなくらいあまりにも普通のこの店、ハムとソーセージに関しては天下一品なのである。おっちゃんが早朝から仕込んで作る手作りのソーセージは、そんじょそこらのデパ地下にある「一流店」のソレよりずっと美味しい。
まだおっちゃんが若いころ、ソーセージの本場ドイツへ修行に行って会得してきたというその技術と、独創で作るソーセージは、一度食べたらもう病みつきというくらいのシロモノ。

オランダで開かれるソーセージの世界選手権みたいなのでは、何度も金賞、銀賞クラスの受賞をしている。でもおっちゃんはちっとも偉そうじゃない、そのへんにいる小汚いおっちゃんだ。

時々TVや雑誌の取材が有るらしいが、おっちゃんが画面的に見栄えがよくないせいか、ソーセージのアップばかりでおっちゃんの顔はあまりでない。
「こないだのさ、見た? 俺の顔全部カットされてんのよ、アッタマくるよね」
と、銀歯を見せてわらうおっちゃん。いいじゃん、おっちゃんの良さがわかんないのよ。ソーセージ売れたら御の字だしさ。

知る人ぞ知る名店なので、口コミで探しに来る人、一度食べて忘れられなくてわざわざ北海道から注文する人、車で遠くから買いに来る人さまざま。

そう、ほんとうに美味しい! 私はここのベーコンを食べてから、ハムメーカーの売るベーコンがまったく味気ないことに気がついてしまった。吉澤のおっちゃんのベーコンは、特にあぶらのところが、そのまま食べても溶けるように美味しい。
「うちのは、本当のスモークベーコンだからさ…よそとは違うよ!」
ここのベーコンを買うと、料理に使うぶんを出す時に、ついついつまんで食べてしまう。だから、いつも余分に買うのだ。

顔なじみになると、おっちゃんは俄然サービスもよくなる。ハムなどはグラム分だけ切ってくれるのだが、その待つ間に新作のソーセージや、入ったばかりの肉の刺し身などを食べさせてくれる。こないだ食べた鹿肉の刺し身の旨かったこと…。

「たまには、肉も買ってよー。うち肉屋なんだからさ(笑) どう?最高級の松坂!」
お金持ちになったら毎日買いに来るよ! それまでおっちゃん元気で頑張ってよ!

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